依存症および大人の発達障害を専門とする静岡市の心療内科・精神科

依存症・大人の発達障害専門
マリアの丘クリニック

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クレプトマニアについて

クレプトマニアとは何か

   世の中には、営利目的でないのに万引きを繰り返して、警察に何度も捕まる人が結構います。それは最近、メディアでクレプトマニアとしてよく取り上げられる精神疾患で、日本語に訳すと、病的窃盗(ICD-10)または窃盗症(DSM-5)となりますが、その概念を正しく理解している人はほとんどいないと言ってよいでしょう。以下のAからEの全てに該当すると窃盗症(DSM-5)と診断されますが、実際にはそのような方はほとんどいません。それは、下記診断基準に記されているように、盗んだ物は個人用に用いるためでなく、その金銭的価値のためでもないとされているからです。基本的には、万引きした物の全てが、自分にとって必要ないと立証されて初めて、クレプトマニアと診断されるので、ハードルがかなり高いのです。

A. 個人用に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される

B. 窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり

C. 窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感

D. その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない

E. その盗みは、素行症、躁病エビソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない

 万引きをやめられず繰り返してしまうのを一般的にクレプトマニアと呼んでいますが、そのほとんどは上記の診断基準には合致しないため、正式な診断名でなく広い意味での「クレプトマニア」(括弧付きにすることで真のクレプトマニアと区別する)とすべきです。筆者はこれまでに、数多くの「クレプトマニア」の患者さんを診てきました。クリニックを受診する方だけでなく、「クレプトマニア」の方が万引きで警察に捕まった後の精神鑑定医としても数多くの事例に携わってきました。そうした長年の経験から分かったことがあります。

 まずは、クレプトマニアという疾患概念の問題です。万引きを繰り返すから、クレプトマニアと診断されるのであって、クレプトマニアだから万引きを繰り返すわけではありません。それは、「クレプトマニア」も同様です。精神疾患の分類のために用意された病名であって、生物学的にそういう疾患が本当にあるか否か実はまだ分かっていないのです。

 繰り返しになりますが、一般的にクレプトマニアと呼ぶ場合は、「クレプトマニア」を指していると考えてよいでしょう。それでは、「クレプトマニア」の人はなぜ何度も万引きを繰り返すのでしょうか。それは何らかの原因で、その人に衝動制御の障害が生じているからであると筆者は考えています。その原因疾患は、うつ病(軽度うつ状態も含む)や双極性障害、摂食障害、認知症、発達障害、人格障害など様々です。それらにより、正常な状態より、少しだけ衝動制御能力が低下しただけでも、人は万引きに至ることがあります。その状態で、物を盗むにしても強盗事件など重大事件を起こすことはまずありませんが、万引きという犯罪行為は罪悪感が少なく、被害者が誰であるか、また万引きされて被害者がどれ程困るかといったことがイメージされにくいため、物を盗りたいという衝動に抵抗できず、実行されてしまうのです。

 

「クレプトマニア」に対する古くて新しい治療法「森田療法」

 上述したように「クレプトマニア」の本態は衝動制御の障害です。その原因疾患がはっきりしている場合は、その疾患に対する薬物療法をしっかり行うことがまず第一です。原因疾患がはっきりしない場合は、薬物療法は効果が乏しいので、精神療法をしっかり行うことが大事です。通常の精神療法とは、受容・共感・傾聴を中心としたものですが、当然、「クレプトマニア」に対してはそれではうまくいきません。万引きをしているのに、医者が「いいんだよ」とは言えないからです。そこで、当院では「クレプトマニア」に対して、森田療法的アプローチをしています。

 私が医大を卒業し精神科医となったとき、師事したのは、故・大原健士郎先生でした。大原先生は森田療法が専門で、私も精神科一年目から森田療法を学びました。

 森田療法は、森田正馬先生(1874-1938)が大正時代に、もともとは神経症の治療法として編み出したものです。森田療法は、大正時代や昭和の中期までは主に入院治療によるものでしたが、現在は外来治療において多く実施されています。そのエッセンスは一言でいうと、「症状はあるがままに受け入れた上で、日々、気分本位でなく目的本位の生活を送る」というものです。その理念は、神経症だけでなく依存症の治療にも応用可能です。私が考える、「クレプトマニア」に対する森田療法の応用法を以下に述べます。

「クレプトマニア」になると、ものを盗りたいという気持ちを完全に消すことは、残念ながらほぼ一生出来ません。そのことは「あるがまま」に受け入れる必要があります。しかし、その気持ちにしたがって、万引きをしてしまうのは「気分本位」で「クレプトマニア」の罠から抜け出せません。日々の生活において、誰しも窃盗とは違う目的があるはずです。その目的を果たせるよう日々を過ごすのです。それが「目的本位」の生活です。「今日一日」を「目的本位」に過ごす、その繰り返しこそが地道ですが、「クレプトマニア」から脱却する最も近道であると私は考えています。

 

クレプトマニアの責任能力

医療機関を受診する「クレプトマニア」の方の病名は、正確には、DSM-5では、「他の特定される秩序破壊的・衝動制御・素行症」となりますが、その病名では、保険診療はできませんので、医療機関でも便宜上、クレプトマニアと病名をつけます。そうすると、その病名で通院中の患者さんが万引きで逮捕された場合に責任能力について争われる場合があります。

 しかし、上述したように「クレプトマニア」の本態は衝動制御の障害で、ほとんどのケースはその程度は重くなく、行動制御能力は有している(即ち責任能力も有している)と考えられます。衝動制御能力と行動制御能力を混同すると、問題の本質を見誤るので注意が必要です。

 行動制御能力は善悪を判断した上で自身の行動を制御する能力です。「クレプトマニア」の人は、万引きが犯罪行為であり悪いことであることは当然よく理解しています(クレプトマニアの人も同様です)。けれども衝動制御能力に問題があるため、万引きを繰り返してしまうのです。

 衝動制御能力の障害と行動制御能力の障害では、その程度が違います。上述しましたが、窃盗に関する衝動制御の障害があるからといって、その状態で強盗事件(事後強盗を除く)を起こすことはまずありません。一方、行動制御能力が失われている(心神喪失)、あるいは著しく減退している(心身耗弱)と、強盗や殺人など重大事件を起こすことがあります。

 裁判において、上記診断基準を満たすかどうかの論議になることがありますが、DSM-5TRの前書きに、司法場面でのDSM-5使用に関する注意書きがあり、以下のように明記されています。「DSM-5の診断名は病因や原因までを意味するものではなく、また診断名に関連する行動制御能力の程度までを決定するには何ら意味をもつものではない。その診断名自体が行動制御能力の低下を含意している場合でさえも、その診断名をつけられた患者がある特定の時点において自己の行動を制御できない(あるいはできなかった)ということを示しているわけではない」。行動制御能力の低下を含意している診断名とは、秩序破壊的・衝動制御・素行症群のことを指していると考えられます。つまり、その群に含まれるクレプトマニアという診断が下ったとしても、行動の制御の程度の判定に関しては何の意味ももたないということです。

 厳密にいうと、クレプトマニアと診断された場合、「クレプトマニア」より、行動制御能力の減退の程度は若干強いかもしれませんが、その程度が著しいとまではいえないことは同じです。完全責任能力であることは同じなので、あとは情状面において今後の処遇を考えるというのが妥当であると思われます。

 

 

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